教室に、どうしても椅子に座っていられない子がいました。
Aくん、2年生。授業中に立ち上がる、隣の子に話しかける、鉛筆をくるくる回す。「落ち着きがない」と言われ続けてきた子でした。担任の先生も、保護者も、毎日のように「座りなさい」を繰り返していました。
ところが、図工の時間だけ、Aくんは別人でした。
椅子に座って、紙に向かって、誰にも声をかけられることなく、40分描き続けた。授業が終わっても気づかないくらい、夢中になっていました。
「落ち着きがない」と言われていた子が、図工の時間だけは「誰より落ち着いていた」んです。
「落ち着きがない」子に多いのは、感覚の豊かさとエネルギーの多さ
Aくんが「落ち着きがない」と言われていたのは、本当に落ち着きがなかったからでしょうか。
私はそう思っていませんでした。Aくんは、感じることがとても多い子でした。教室の外を飛ぶ鳥が気になる。友達の消しゴムの形が面白い。先生の話の中の一言にひっかかって考え込む。入ってくる情報が多すぎて、体がついていってしまう子でした。
「問題のある子」ではなく「入力が多い子」
落ち着きがない子には、大きく分けて2つのタイプがあると感じてきました。
一つは「感覚過敏型」——周囲の刺激をたくさん受け取りすぎてしまう子。音・光・人の動きがどれも気になって、体が反応してしまう。
もう一つは「エネルギー過多型」——体を動かしたいエネルギーが、じっとしていることを許さない子。動き回ることで、頭が動いている。
どちらも「落ち着きがない」という言葉でまとめられてしまいますが、本質はまったく違います。そして、どちらも「問題のある子」ではありません。
なぜ絵を描く時間だと落ち着くのか——集中と没頭の仕組み
Aくんが図工の時間だけ落ち着いていた理由を、私なりに考えてきました。
「正解がない」から、余計な刺激が入らない
算数や国語の授業は、常に「正しいか間違っているか」という評価がついてまわります。「答えは?」「次は?」という外からの声が続く。落ち着きがない子にとって、この「次々と来る刺激」が、かえって落ち着けない原因になっていることがあります。
ところが絵を描く時間は、正解がありません。「どう描くか」は自分で決める。誰かに急かされない。その「自分のペースでいい」という状況が、過剰な刺激を遮断して、没頭できる条件を作っていました。
手を動かすことで、頭が整理される
エネルギーの多い子にとって、「体を動かしながら頭を使う」という状態がいちばん集中しやすいことがあります。絵を描くことは、手を動かしながら頭でイメージを作り続ける作業です。体と頭が同時に動いているから、余ったエネルギーが別のところへ行かない。
Aくんが40分座り続けられたのは、「座らせた」からではなく、「体と頭が両方使える活動」だったからだと思っています。
変わったのは「子ども」ではなく「時間の使い方」だった
Aくんの話には、続きがあります。
図工の時間に変化が見えてから、担任の先生と話しました。「他の授業でも、手を動かす時間を少し入れてみたらどうか」と。ノートに書く時間を少し増やす、考えたことを図で書かせてみる——そういう小さな工夫を試してみました。
すると、Aくんが少しずつ落ち着いてきた。立ち上がる回数が減った。完全にじっとできるようになったわけではないけれど、「手が動いている時間」が増えると、体が余計なところへ行かなくなっていきました。
Aくんが変わったのではありませんでした。Aくんが集中できる「時間の作り方」が変わったんです。
おうちで試せる「没頭できる時間」のつくり方
「座って落ち着かせよう」とするより、「没頭できる環境を作る」方が、結果的に子どもは落ち着きます。
① 「好き」から入る——テーマを子どもに選ばせる
「何か描いて」ではなく「恐竜を描いていいよ」「今日見た虫を描いてみよう」と、その子が今一番興味を持っているものをテーマにします。「好き」が入り口になると、集中は自然についてきます。
② 「立って描いてもいい」——体の自由を保障する
エネルギーの多い子に「座って描きなさい」は逆効果になることがあります。床に大きな紙を広げる、立ったまま描ける高さのテーブルを使う——体が動ける状態で描かせると、かえって長く集中します。
③ 「どこまで描いたか見せて」——途中に声をかけない
没頭している子どもに「上手だね」「もっとこうしたら?」と声をかけると、集中が途切れます。描いている最中は見守るだけにして、一区切りついてから話しかけましょう。「どこまで描いた?」と聞くだけで、子どもはまた続ける力をもらえます。
よくある質問
Q. 絵には全く興味がない子でも効果がありますか?
A. 「絵を描く」以外でも構いません。粘土、工作、スタンプ——「手を動かしながら頭を使う」活動であれば、同じ効果が期待できます。絵にこだわらず、その子が「やってみたい」と思える素材から始めてください。
Q. 発達障害の可能性はありますか?
A. 「落ち着きがない」だけで発達障害とは言えません。ただ、日常生活に大きな困り感がある場合は、専門家に相談してみることをおすすめします。「絵を描くときだけ落ち着く」という情報は、専門家にとっても大切な手がかりになります。
Q. どのくらいの時間、続けさせればいいですか?
A. 最初は5〜10分でも十分です。「短くて終わった」より「もっとやりたかった」で終わる方が、次への意欲につながります。時間を決めて切り上げるより、子どもが区切りをつけるまで待てる環境が理想です。
まとめ
✏️ まとめ|「落ち着きがない」子と絵を描く時間
- 「落ち着きがない」子には「感覚過敏型」と「エネルギー過多型」がある——どちらも問題ではない
- 絵を描く時間は「正解がない」「自分のペース」だから、刺激過多の子が落ち着きやすい
- 手を動かしながら頭を使う活動は、エネルギーの多い子が集中しやすい
- 変わったのは「子ども」ではなく「時間の使い方」だった
- 「好きなテーマ」「体の自由」「途中で声をかけない」が没頭の3条件
「座らせよう」とするより、「没頭できる場を作る」方が、子どもは結果的に落ち着きます。Aくんが教えてくれたのは、そういうことでした。
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正解を探すより、
「この子の場合はどうだろう?」と立ち止まる時間を。
※唯一の正解はありません。その子に合うかどうかを、一緒に考えませんか。
いっちー
元小学校教員(15年)
ベビー&キッズ専門フォトグラファー
小学校で15年、子どもたちの育ちを間近で見てきました。その経験から、ベビー&キッズ専門フォトグラファーへ転身。
レンズを通して感じる毎日——
かわいい。謎い。純粋すぎる。
「うちの子、大丈夫かな」という不安がそっとほぐれるような記事を書いています。
この場所で書いていること
・ 子育てあるある
・ 毎日の小さな楽しみを見つけるヒント
・ 絵や行動から読み取る子どもの心

