この記事の内容
砂場で繰り広げられる、小さな「外交交渉」
天気の良い午後の公園。
砂場はおもちゃの宝庫であり、同時に子どもたちにとっては人生初の「社交場」でもあります。
(子どもが砂場に引き寄せられるのはなんででしょうね・・・)
お友達が使っている真っ赤なバケツを、じーっと見つめているわが子。
「あ、それ使いたいんだな」と気づいた瞬間、親の心には小さなアラートが鳴り響きます。
「ちゃんと『かして』って言えるかな?」
「いきなり奪い取ってトラブルにならないかな?」
ドキドキしながら見守っていると、わが子がゆっくりと口を開きます。
「か……し……てー……」
語尾がふわりと上がって、どこか歌っているような、のんびりとしたリズム。
それに対して、お友達が「いーいーよー」と返してくれたり、「イヤ!」とそっぽを向いたり。

親としては、その一挙一動に一喜一憂してしまいますよね。
「貸してもらえてよかったね」と胸をなでおろすこともあれば、断られてショックを受けている姿を見て、どう声をかけていいか迷ってしまうこともあります。
実は、この「かして」「いいよ」という何気ないやり取りの中には、子どもの脳と心がフル回転で成長しているドラマが隠されているんです。
今日は、そんな子どもの「言葉」と「行動」の裏側にある一生懸命な理由を紐解きながら、親として今日からできる現実的なサポートについて一緒に考えていきましょう。
なぜ子どもは「かーしーてー」と音を伸ばすの?
大人の会話では、用件はスッと言い切るのが普通ですよね。でも、2歳から4歳頃の子どもたちは、なぜあんなに独特のリズムで音を伸ばして話すのでしょうか。そこには、彼らなりの「3つの理由」があります。
① 魔法の「呪文」としての完コピ
多くのお父さんやお母さんが、子どもに「貸して」を教えるとき、こんな風に言いませんか?
「ほら、『かーしーてー』って言ってみようか?」
大人は無意識に、子どもが聞き取りやすく、真似しやすいようにメロディをつけて教えています。子どもはそれを、言葉の意味だけでなく、「このリズムで言えば、おもちゃを貸してもらえる(かもしれない)魔法の呪文」として、音のセットでまるごと覚えているんです。
いわば、お手本の「完コピ」をしている状態。とっても素直で、社会のルールを守ろうと頑張っている証拠なんです。
② 相手の心に入るための「ノック」の音
小さな子どもにとって、誰かが使っているおもちゃは、いわば「相手のテリトリー(陣地)」にある大切な宝物です。 いきなり土足で踏み込むのはいけないと、頭ではわかっています。でも、パッと言い切るのは緊張するし、勇気がいります。
そこで言葉を「かー・しー・てー」と伸ばすことで、自分と相手の間に「クッション」を作っているんです。
- 短い「貸して!」: 弾丸のように飛んでいき、相手を驚かせてしまうかもしれない。
- 長い「かーしーてー」: 「今からお願いするよ〜」という合図を送り、相手が「いいよ」と言いやすい余白を作っている。
言葉を伸ばしながら、子どもは相手の表情や空気を探っています。いわば、相手の心の扉を優しくトントンと叩く「ノック」のようなものなんですね。
③ 「外交交渉」という社会性の大ジャンプ
実は「かーしーてー」と言えている時点で、その子の社会性はものすごい大ジャンプを遂げています。
- ステップ1: 無言で奪う(まだ自分しか見えていない)
- ステップ2: 泣いて訴える(言葉が追いつかない)
- ステップ3: 「かーしーてー」と言う(相手の存在を認め、言葉で解決しようとしている)
「かーしーてー」と伸ばす余裕があるのは、「相手には相手の都合がある」ということを、心のどこかで意識し始めているからこそ。まさに、人生初の「外交交渉」の最中なんですね。
「かして」「いいよ」をスムーズにするための3つのサポート
練習中の子どもたちが、自分からスムーズに声をかけられるようになるために、親ができる具体的なお手伝いをご紹介します。
① 気持ちの「実況中継」で言葉の回路を作る
子どもが何かに手を伸ばそうとしたとき、その「やりたい気持ち」を大人が先回りして言葉にしてあげましょう。
「あ、あの赤いシャベル、使ってみたいね。そんな時は『かして』って言うんだよ」
まだ本人が言えなくても大丈夫です。「自分のこの気持ちは、こういう言葉で表現するんだ」という回路を、頭の中に作ってあげることが第一歩です。
② 「貸さない権利」も認めてあげる
実は「いいよ」と言えるようになるためには、「今はダメ」と言ってもいい安心感が必要です。
大人だって、今まさに集中して使っているものを「貸して」と言われて即座に渡すのは難しいですよね。 「今はまだ使いたいんだね。じゃあ、これが終わったら『いいよ』しようか」
「自分のもの(使っている時間)を大切にする気持ち」を尊重してもらえる経験が重なると、心にゆとりが生まれ、自然と「いいよ」が言えるようになっていきます。
③ 断られた時の「次のステップ」を提案する
「かして」と言ったのに「イヤ!」と言われる。これは子どもにとって一番ショックな瞬間です。ここで心が折れないよう、親が「次の一手」を提案してあげましょう。
「今は使ってるんだって。じゃあ、あっちの滑り台を3回滑ったら、もう一回聞きに来ようか」
「断られる=拒絶」ではなく「今はタイミングが合わないだけ」ということを、遊びの提案で伝えてあげます。
トラブル発生!「奪い取った時」「奪われた時」のレスキュー法
どれだけ教えていても、感情が爆発して手が先に出てしまうことはあります。そんな時の具体的な振る舞い方です。
わが子が「奪い取ってしまった」時
親として一番心臓がバクバクする瞬間ですよね。「やっちゃった!」って。でも、焦ってわが子を強く叱る必要はありません。
- 物理的に止める: おもちゃではなく、わが子の体を優しく、でもしっかりと抱き止めます。
- おもちゃを返す: 一旦おもちゃを相手に返し、その場から数メートル離れます。
- 気持ちを翻訳する: 「どうしても、使いたかったんだね。悔しかったね」と、まずは欲求だけを100%肯定してあげます。
- 落ち着いてから教える: 泣き止んだ頃に、「次は、お口で『かーしーてー』って言ってみようか」とやり直しを促します。
わが子が「奪い取られてしまった」時
楽しく遊んでいた道具を「ふんっ」ととられてしまったとき……。わが子の丸まった背中を見るのは辛いものです。
- 衝撃を受け止める: 「びっくりしたね。今、使ってたのにね」と、驚きと悲しみに寄り添います。
- 「何も悪くない」と伝える: 「あなたはちゃんと大事に使ってたよ。何も悪くないよ」と伝え、自己肯定感を守ります。
- 大人の助けを呼ぶ練習: 「嫌なときはママ(パパ)と一緒に言いに行こう」と、一人で戦わなくていいことを伝えます。
成長とともに消えていく「黄金期のメロディ」
あの「かーしーてー」という独特のリズムも、成長とともに語彙が増え、コミュニケーションに自信がついてくると、自然とスッと短い「貸して」や「次は僕に貸してくれる?」といった具体的な言葉に変わっていきます。
あの可愛らしくて、ちょっと切ないメロディが聞けるのは、実はほんの短い「黄金期」だけかもしれません。
次にその声を聞いたときは、「お、今日も一生懸命交渉してるな」「心のノックをしてるんだな」と、少し引いた目線で応援してあげてくださいね。
【今日をやり過ごすためのヒント】
お友達とのやり取りをハラハラ見守るのって、本当に体力が要りますよね。
もし、今日はもう見守るパワーがないな……と思ったら、そっとその場を離れて、誰もいない公園へ移動したっていいんです。
無理に「立派な振る舞い」をさせようとしなくて大丈夫。
あなたとお子さんが、今日を笑って過ごせることが、何よりの正解ですから。
今日の話、実は書くのがすごく苦しかったんです。 その時のぐちゃぐちゃな本音は、noteの方にこっそり置いておきました。
もし、もっと深いところまで一緒に潜ってくれる方がいたら、覗いてみてください。
気持ちはあるのに、うまく言葉にできなくて爆発してしまうこと、ありますよね。
『おもちのきもち』は、自分の気持ちをうまく言えないもどかしさを、 やさしい物語で表現した絵本です。 癇癪やトラブルの前に、「こういう気持ちだったんだね」と 親子で気持ちを共有するきっかけになります。
家では聞き分けがあるのに、外では言うことを聞かないと感じる場面も。
次の一歩として:
お友だちトラブルだけでなく、家でも「言うことを聞かない!」とイライラが限界……という方は、こちらの記事も読んでみてください。
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いっちー
元教諭(15年+)&プロカメラマン。
わが子の発達グレーやきょうだい児の葛藤に、涙でティッシュの山を築きながら向き合っている現役の母です。
教育の現場を知っているからこそ、外側から「正解」を押しつけられることの息苦しさや、もどかしさを感じてきました。
キラキラした正解の中で、無理をして生きるのはしんどいですよね。
「こうすべき」の前に、「この子の場合はどうだろう?」と、一緒に立ち止まれる場所でありたいと思っています。
子どもの絵に宿るサインや、言葉にならない心の機微をそっと眺めて。
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